ndl – dialy 17,Aug,2007

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この日記はアーティスト・イン・レジデンス”ndl”でプーケット滞在中に書かれたものです。
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風邪から復活するのにまる一日つかってしまい、その間にバンコクに移動する予定だったがそれもできず、飛行場でチケットを買うと予約したときに2倍以上かかって帰りもその値段だから、結局バスで移動するなんてことは考えずに初めから飛行機を予約しとけば、確かに経済的にはよかった。でも、一日部屋で寝ていたときの時間の欠落感は、プーケットのアパートと東京の家の記憶をぐちゃぐちゃにしてしまって、病床、バンコクに行かなければならない、バンコクに行くことが必要なんだとがんばって寝ようとしながら、家の対概念は旅行なのかもしれないと考えていた。考えというより、震えながら感じようとしていたと言うのが正確かもしれない。体が寒さを感じると、想像は自然と故郷に近づく。空港でチェックインして並んでいる間、窓の外は曇って青白く、細い木は松に見え、窓の白い横線の模様と遠くの海の光の反射が雪に見える。

そこで、バンコクに行くのは家から旅行するようなものなのかというと、全然そういうわけではない。プーケットで会っていた面子がバンコクに沢山いるし、出かけるまでの道々はやっぱり見慣れた景色とは言いがたいし、今日飛行場に行く前に寄った病院も、一昨日の夜に自分が行った記憶がおぼろげにはあるけれど外国の病院で、特に違ったのは臭いだ。チューブがついた老人は白人だ。だから白人の家族が付き添っている。外国人だらけというのは疾うに慣れたが、自分が外国人であることを意識するのは、自分が外国人であることを意識している外国人を見たときで、だから日本人だらけの場所にいるタイ人を見ても外国感は感じる。初めて乗るバンコクの電車では、もう外国感はない。もとから国という括りは体と繋がっていないのだろう、ボクが日本人であることや日本に国籍があることと、ボクが日本を自国だと実感することは全く関係がない。ベンチ席の真ん中上にモニターがありCMが流れていて、アナウンスが流れるたびにCMの音声は止まり、薄暗く少し赤っぽい光の車内は一瞬だけ電車の音だけになって、そのとき日本の電車に乗ってる感覚に通じるものを感じて、そういったものしか体は覚えていてくれない。いくつかのタイ語は自然に出るようになった。数字はまだだ。

ダンスのイベントを見終え、レセプションのような場でビールを飲みつつ今日のイベントのことについて、あるダンサーとまったり話していた。彼女が「あたしのは社会的でも政治的でもないから」と言ったのは、確かタイ人のパフォーマンスグループの作品がとても政治的なメタファーが多かったことを受けてだと思うが、タイに住むお客さんと共有している社会が全くとは言わないまでもほとんどないのだから、そんなことはしなくていいとボクは言いいそうになって、でもそれを彼女にではなくて自分に言ってしまった。そしてまた、わからなくなる。彼女のパフォーマンスのあるシーン、お茶を入れるジェスチャーをし、それを向かいに差し出し、今度は移動しそのお茶を受け取り、口をつける前にまた横に差し出すという繰り返しの中、鳥肌が立った。ときどきある偶然を奇跡的だと思うことがあるが、今夜のイベントの中、一番感動したパフォーマンスは別のものだが、鳥肌が立ったのはこのシーン、二匹の鳥が彼女の後ろを飛んでいるのに気づいた一瞬だけだ。
思えば、半屋外の劇場でダンスを見るのは初めてで、最初は虫や外の音が気になって集中できなかったが、屋内ではない空気はダンスを見る目にもきっと影響していたのだろう。扇風機の風が上手前から吹き付ける中、走る二人の女の子からは砂漠を連想していた。三人の男性が床に頭が刺さったように逆立ちし、それから足を曲げて鳴いているのは、最初はカエルの鳴き声かと本当に思っていた。体が覚えていることに考えが行ったのは、ダンスを見たからだろうか、とまた理由を探し始める。結果を覆す理由ならいいが、思考は気持ちのよい予定調和に向かってしまう。
それはそうと、ダンスを見ただけではなく、水上バスの上ではタイに来る数日前に撮影した、隅田川の水上バス内で行われたダンスパフォーマンスのことを思い出していて、あれから何日たったのだろうかと計算したりもしたのだが、思い出していたパフォーマンスはそのときのものではなく、7月に催されたものだったことに今気づいた。川の上が涼しいことに気づいたのは陸の上に上がってからだったが、記憶は思い出されたときの雰囲気を伴って強固な思い出になっていくとしたら、何も思い出さない人ほど事実としては正確な記憶を持っているのかもしれない。ボクがやっているのはその逆で、正確な事実から遠ざかったフィクションを作るために、思い出をノンフィクションで幾度も書くのだと言ったら、この日記の信憑性を失うだろうか?
そのイベント会場に向かう前、ユースの前でしばらくカメラを回していた。バンコクに来たのはそのためで、やってくるはずの人と初めて会うシーンを撮るために10分ほど待つと、ユースの中から白人の男女が出てきた。二人ともかなり日焼けしていて、男性はタバコを吸うからちょっと待てと女性にいい、彼女は荷物を置いて道路に向かった。残った彼にカメラを向けると、彼は話しかけてきて二人はスイス人だと言い、ボクのカメラを見ながらスイスの国際フィルムフェスティバルに出展するといいとしきりに言う。彼女が戻ってきた。彼はタバコを吸い終え、大きな荷物をユースの前にずっと止まっていたタクシーに乗せているとき、通りの向こうからボクが待っていた人が来た。

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