ndl – dialy 19,Aug,2007

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この日記はアーティスト・イン・レジデンス”ndl”でプーケット滞在中に書かれたものです。
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廊下を挟んで向かい側の部屋は、午後、何人かの男性が中に入ってから廊下中に響く音量で音楽を鳴らし、ジャンルはめちゃくちゃだったけれどどれもタイ語だったことから考えるとたぶんタイの流行りの曲なのだろうが、ベランダから来る風を通すために入口のドアも開けているとそれらの曲はボクの部屋でかかっているかと思うくらいの音量で聞こえてきて、灰皿とコーヒーの入ったカップをベッド脇の小さなテーブルに置き、枕を背にベッドで読んだ久々の活字をは久しぶりという感じは全くしなく、途中まで読んでいた『レベル3』の続きは音楽と一緒にすんなり頭に入って来た。

文体の雰囲気こそ違えど、今日読んだ「潮時」も「二度目のチャンス」も過去と繋がった主人公が知らぬ間に現在を変えてしまったという話だ。ジャック・フィニィ本人のことはプーケットに来る前の日記でも度々書いているから繰り返さないが、彼の短編はいくつかの傾向に分けて考えることができ、その傾向は文章が一人称か三人称かとも関係していて、三人称で書かれているものは時間に関わるSFというよりもむしろファンタジーで、逆に一人称で書かれているものはほとんどが時間に関する秘密を見つけてしまった語り手による秘密話として始まる。H・G・ウエルズの『タイム・マシン』が初めてのタイムトラベルものとして知られているけれど、これも時間旅行を経験した科学者の話を聞き手である主人公の視点で綴った一人称で、この形はたぶん探偵の活躍を探偵秘書の視点で綴る推理小説に遡れるのだろう。
なぜタイでこんなことを書いているかというと、タイでも日本でもどこでももうあまりボクには関係ないっぽいのだけれど、日記でこの形が有効なのか、有効以前に可能なのかということを考えているからで、これは結論も実践もまだなにもしていない。ボクが話して誰かが聞く、誰かが話してボクが聞く、どちらにせよボクは一人なのでボクが話してボクが聞くしかない、論理に基づく精神の分離が必要だ。例えばその一日のボクの行動を三人称で書くことはできるが、それはたぶん全然違う。

ベッドの後ろの壁にL版の写真を52枚、2列に貼った。この写真は15日にプーケットタウンの高校で行ったWSで使われたもので、写真の上にはマスキングテープが貼られてその上に文字が書かれていて、ほとんどはタイ語だがいくつか英語もあり日本語が並記されているのもある。学生たちが日本語を習っているというので、プレゼンは通訳なしで日本語で行い、このスクリプトを書くのにかなり大変な思いをしたことは別の日記にすでに書いたが、学生の反応を見ていると難しい話はできそうになく、用意したスクリプトの半分くらいは結局話さなかった。「皆さんと一緒にこれから作品を作ります」と言った瞬間、学生たちはざわざわしはじめ、写真を配り始めると隣の人と話し初め、写真に文字を書くまではなんとか予定通り行ったが、休憩後の撮影では私語が多すぎてプロジェクションされているイメージに誰も集中していない、だらだらの空間になってしまった。作品制作とWSを一緒にやってしまうというボクの狙いはあまり成功しなかったのだけれど、学生と先生の感想はそれなりによく、WSとしては成功したと言っていいだろう。
その後、アパートに戻ってバンコクに行くオクノを見送ったあと、部屋に戻った途端に具合が悪くなり仮眠をとり、次に起きたときには熱が出ていてその夜に病院に向かった。いままでの日記では風邪だと言っていたが、風邪というより過労+心労のような気が今はしている。

夕飯を食べにPSU前の食堂に行ってパッタイを頼む。パッタイはタイ風ヤキソバのことで、この店には英語が通じるおばちゃんがいるのだけれど今日は彼女にではなく他のおばちゃんに「パッタイ」と一言だけ言うと、頷き笑ってくれた。テレビではサッカーの試合をやっていて、後から入って来た8人連れくらいの青年たちは、四人がけのテーブルが二つ繋がったボクと同じテーブルに座ってみなテレビを見て、どちらのチームを応援しているのか最後までわからなかったけれど点が入りそうになるたびに全員が声をあげる。パッタイを食べ終え、「タオライ?」とおばちゃんに聞くと「サームシップ」と返ってきて、それがいくつかわかるまでに5秒ほどかかったが、初めてタイ語で数字を聞き取ることができ、30バーツちょうど彼女に渡して店をでると、クレープの屋台が止まっていた。
その前に少年が3人、ボクから見て少し奥にモトにまたがった男性が一人、店員は真っ黒い顔をして一心不乱にクレープを作っているからボクはいつ注文すればいいのかとまどっていると、少年の一人がナイフでクレープを切り始めた。残り二人の少年が見つめる目の前で彼はクレープを切り、切り終えたものをビニール袋に入れて、モトにまたがったままの男性がそれを受け取って去ったあと、真っ黒い店員がボクを見つめたので、「ヌンバナーナ」と言ってみた。Only banana? Yes. OK. 屋台に貼付けられた30×10cmほどの木片にメニューが書かれていて、プレーン、チョコレート、ストロベリー、バナナ、などの他にもココナッツ、コーン、オレンジジャム、などがあった。少年は次々出きてくるクレープを切りコンデンスミルクをかけ、謎の粉をふりかけ、後からやってきた、たぶんすでに注文済みだった女性二人組に皿に乗せて渡す。次にクレープが渡ったのは二人の少年だった。一人が運転、一人が二つの皿を持ち、モトで走り去ったあと、皿にもられたクレープがボクに渡された。謎の粉は砂糖、とても甘くてクレープはカリカリしている。食べているときに気づいたのは、少年も真っ黒だということだ。
寝ようと思い電気を消し、音楽を止めた。雨が降っていることを書くために閉じたディスプレイをもう一度開いたが、雨が降っている夜は珍しくない。

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