—–
この日記はアーティスト・イン・レジデンス”ndl”でプーケット滞在中に書かれたものです。
ndl
—–
夕食を食べ終えてからプーケットタウンに向かったが、もうパオくんのお母さんの店は閉まってしまったようで、諦めて家に戻って夜にパトンに撮影しに行こうかとも思ったがとりあえずクロックタワーをビデオに撮ろうとモトを止めると音楽が聞こえてきて、タワーの近くのお寺がライトアップされていた。カメラを構えて近づくと何やらショーをやっているようで、ライトアップだと思ったのは舞台の照明だったのだが、お寺の敷地に入った途端に灯りは消えて音も途絶え、代わって人々が騒ぐ声。どうやら電源が落ちたようで、すぐに復旧するかと思ったが待てどもショーは再開されず観客も一時はざわめいていたが、それでもすぐに落ち着いて誰もがのほほんとしている。怒る人も席を立つ観客もいない。この間に何か食べようと皆思ったのか、舞台袖すぐ近くにある屋台には行列ができている。ボクは暗い寺の中を覗いたりタバコを吸ったりしつつ、ほとんど灯りのない観客席の片隅でタイ人とは何か考えていた。
—–
システム自体に問題があるのではと言う人もいるのだが、それは「タイ人はシャイで自分で考えるのが苦手」という理由からで、ボクが「タイ人は〜〜」と決めてしまっては絶対にダメで、それは許容することで卑下していることになるような気がするし、何よりタイ人が特別みたいに感じられてしまう。ボクはタイやタイ人のために何かをするわけではなく、その場にいる人のために何かをやるわけで、その場にいる人がタイ人だから方法を変えるということは、選べない。それとも選ぶべきなのだろうか?
—–
寺の前には大きなテーブルが一直線に並び、その上にはいろんな料理がもられた皿が整列していて、でもそれらはボクがいつも食べているタイ料理のような感じではなく飾り付けられた特別なもののようで、料理以外にも花のようなものが載っていたりもし、そこに寺の方から来た煙が風に飛ばされずに漂っている。寺の中から出てくる人は手に乾燥した草のようなものを持ち、それには火が灯っていて、それを寺の前に置いた大きな線香立てのようなところに少しいれ、また寺の中へと戻って行く。これらの所行が何を意味するのか、ボクにはわからない。8月20日のトークイベント後、悩んだ末選ばなかったことを、今、いとも簡単に選ぼうとしてやいないかとビデオの録画をストップさせる。入り口の門には大きな竜の彫刻が左右に掘られていたが、蝋燭の光はエメラルドグリーンと赤と黄色の彩色をどれもオレンジ色に染めていた。再開するかどうかもわからないショーを待つべきがどうか悩んでいると、丸い月が見えた。
ショーはその後しばらくして再開し、ボクは再びビデオを回し始めた。ショーはどの演目どれも同じような構成をしていて、まず音楽が始まると舞台にダンサーが並び、しばらくして「サワディー」とまだ登場していない歌手が言う。歌が始まると歌手が舞台袖からダンサーの後ろを通って真ん中から前に出、歌いながら両手を合わせておじぎする。その後はダンサーは踊り歌手は歌い、何の変哲もないただの歌謡ショーなのだが、ときどき歌手に何かをプレゼントしにお客さんが前に出て、歌手はそれを受け取る。ダンサーの年齢は中学生くらいの子から30歳くらいに見える人まで幅広く、ダンスはタイの伝統のものを取り入れたようなところもあったが、ほとんどはなんというか、いまどきの踊りだ。歌はどれもポップスで、でも流行の曲というわけではなく、歌手の歌い方はなんだか日本の演歌のようにも聞こえる。
—–
映画。少年は旅芸人に出会う。芸人といっても、歌手の巡業みたいなもの。ある一座の巡業みたいな。落ちる女の子。男の子はその歌手に憧れ、そして最後には跡をついで歌手になる。二人のオカマ、痩せておかっぱの前座歌手、いつもけんかしているトランペット奏者と踊り子の女の子、成金趣味のマネージャ、トップダンサーの女の子と少年のロマンス、言葉がわからなくてもわかったのはこれくらいのことだ。
—–
8月12日に見た映画の巡業歌手のショーそのままだった。テープが終わって、今度は写真を撮ろうと場所を変えると、両足のない男性の歌手が片手にマイクをもったまま手を使って舞台真ん中前方まで出てきて、そこは照明があまり当たらなくて彼の顔には少し影がかかっていたのだけれど、彼が歌いだした途端、何人もの客が立ち上がり彼にお金を渡しに席を立った。ボクの位置からはよく見えなかったが、マイクを持った右手で受け取っていたのでたぶん左手もない。よく見るとないのは足ではなく脚で、つまり股から直に踵から下が出ていて、事故で手足を失ったのではなくて生まれながらの奇形なのだろう。2時間弱ほどでショーは終わり、ビデオを片付けていると肩を叩かれ、白いまんじゅうを手渡された。食べると中に具はなく、決しておいしくはなかったのだが、一部だけ赤色がついて桃のようにも見えるそのまんじゅうはボクの後ろに山と積まれており、今日はこの寺のめでたい日なのかもしれないし、タイでは王様の誕生日である金曜日に黄色い服を着るのが習慣らしいが今日もみな黄色い服を着ていたので、お寺がめでたいというよりはタイ中がめでたいのかもしれない。今日の日付入りの写真を撮らせてもらおうと舞台裏に設けられた仮設の楽屋のようなところへ向かうと、すでにほとんどの女の子はいなく何人かの女の子がモトに跨がっていた。誰に声をかけようかと迷っている間、どんどん女の子はモトで走り去って、最後、電話をしていた子に声をかけようとしたところ、さっきまで客席だったところから急に爆発音が連続してし始め、何事かと覗くと長く連なった爆竹がどんどん爆発していた。振り向くと電話していた女の子もいなくなっていた。巡業ではないようだ。
そういえば、ボクはタイで過ごす間、一日につき一つ、ルールを作ることにしていた。「髪を二つ結びにする」「日記を書くために何かをしてはならない」「写真を見て思い出して日記に書いてはならない」「日記を書くためにメモをとらない」など、一日一つ作ることはできなかったけれどルールは次第に増え、でも18日、バンコクからプーケットに戻ってからそれは次第に守られなくなっていっている。「写真を縦位置で撮らない」というルールも今日、ダンサーをアップで射抜くために破られた。素人が撮って雑誌に投稿したアイドルの写真のようなものばかり、メモリが一杯になるまでとり続け、パソコンに落とす前にその半分以上は消された。「部屋でテレビを見ない」というのだけは最後まで守られそうだが、夕食をとった食堂でドラえもんのオープニング曲が流れ始め、日本のアニメがどのように放送されているのかとても気になってきてしまっている。見るのならやはり、格闘技が見たい。



The are no comments posted for this entry. Be the first to comment!